2016年10月に、足掛け4年(2013年5月から)関わってきた航空機の強度試験が一段落したようで、すこしホッとしている。この機会なので少し振り返ってみたい。
(※右下図の赤の部分が製作したケーブル。機体内部の電気系統ではない)


ケーブルの使われ方は上図参照。
http://www.mod.go.jp/trdi/news/1308_5.html
キャノピーの奥から、機体(緑)をつたって、ピンクっぽいもの右下方向へ見えるはずだが、これが製作したケーブルの束。ピンクにみえるのは白と赤のリード線が混在しているため。)

 今回のような試験用ケーブルは汎用的なものが存在しないので、毎回、特注での作成となる。ケーブル数は335本。ハンダは2万箇所近くになる。試験終了後は、破棄される運命にあるので、あまりコストをかけるわけにはいかない。ある意味、当社のような中小企業向けの案件といえる。

 この案件は、発注元ある三菱重工業(以下、MHI)と、共同歩調を意識して進めさせて頂いた。一般的には、発注元が図面を起こして、それに従って弊社が作成を行なうが、今回は仕様だけを指示して頂き、製作に係る部分は、当社が図面を描いて承認を得るという方式をとらせて頂いた。電気分野は、加工精度などを厳密に指示されても、コストがかかるだけでほとんど意味がない。こういった点を了承して頂いた上で、図面化し、製作を行った。結果としては、双方にとって無駄のない進捗になったと思う。

○苦労した点1(航空機用のコネクタ)

使用するコネクタが主に航空機で使われるもので、あまり馴染みがないものだったので、試作版のケーブル作成をさせていただいた。(見た目はMSコネクタだが、コンタクトなどがかなり違う)。
圧着ピン・防水仕様で、コンタクトの挿入だけでも、かなりやりにくい。とりあえず作成してみたものの、リード線がケーブルクランプに収まらない。リード線を細くすると今度は圧着ができない。
後になってわかったことだが、航空機向けのケーブルは、一般に販売されているものより芯線に対して被覆が薄い。前半の試験では、中継コネクタが航空機向けだったため、ケーブル(一般用)との整合が難しくなってしまった。


コネクタとリード線を接合する方法は、大きく分けて圧着とハンダがある。どちらが良いかと尋ねられることもあるが、ケースbyケースで一概に言えない。圧着の方が、洗練されたイメージがあるが、製作する側からすると、いろいろ問題も多い。

・専用圧着工具が必要となる
高価(10万円くらいするものがざら)。多くの作業員で圧着するには、それが何本も必要になる。そうとう本数を作らないと採算が合わない。

・コンタクトと電線の組み合わせが限られる
コンタクトに圧着できるリード線のサイズが決まっている。サイズというのは芯線の経(断面積)と被覆の厚み(リード線の経)の2つだ。この両方が、コンタクトに合わないと、圧着できなかったり、圧着しても抜けたりする。

ちなみに、ハンダなら、数千円のハンダごてで良いし、リード線も、芯線が太すぎなければ細くても問題なし、被覆の厚みも関係ないので、悩むことがかなり減る。

結論から言えば、このケーブル作成は、ハンダタイプのコネクタに選定し直して頂いた。これによってリード線も細いものに変更され製作コストの低減と、設置時の取り回しが簡単になったと思う。

ただ後半の試験では機体と接続するケーブルの作成がありコネクタ(圧着仕様)が指定だった(さすがにこれは変更不能)。このコネクタと電装用コネクタ(圧着仕様。詳細は後記)の双方の仕様を満たすケーブル選定が一苦労だった。ケーブルというのは、よほどの汎用品でないかぎり在庫が多くない。流通量も考慮しないと納期に間に合わなくなる。異種の圧着型コネクタのケーブル選定は、ほんとうにやっかいだ

○苦労した点2(ケーブルの作成)
 我々の業界では、通常ケーブルは自社で仕入れるものなのだが、今回は特殊で、3本一組の電線(下記写真、客先支給)を10本束ねて、1本のケーブルにする作業が必要になった。それも長さは15mだ。
 当初、当社にあるケーブル切断機(電線を指定長で切る機械)を使えば簡単だと思っていた。ところがやってみると、電線の被覆の素材が滑りにくく、平行線(平たい形状)なので蛇行してしまい、かつ細いので電線がすぐにからまってしまう。手でひっぱりながらだと、なんとか切れるが、束にしておくとすぐにからまってしまう。これには、ほとほと閉口した。
 結局、ケーブル切断機の使用を諦め、時間がかかるが手作業で行なうことにした。幸い、弊社は屋内に直線で25mくらいの場所を確保してあるのでなんとかなった。また、ベテランが良いアイディアを出してくれたため、おもったよりスムースに進めることできた。怪我の功名だが、当社のノウハウの1つにできた。


○不安だった点(電装用コネクタ)
 後半の試験では、中継コネクタに電装用の小型コネクタを使用したいとの意向があった。このコネクタは、当社でも過去に使用した経験があったが、今回の用途に使うには不安な点があった。実際、MHIでも過去の試用テストで問題が生じ、見送った経緯があるようだ。そのコネクタは…
  1. プラスチック製で変形に弱い。
  2. コネクタ同士の接続が爪止め(ビス止めではない)
  3. ケーブルクランプがない(リード線がコネクタに固定されない)
  4. 接触不良(MHI、当社も経験)
1~3はコネクタ自身の仕様なので、いかんともしがたい。

4に関しては、過去、当社でも客先(MHIではない)との間で問題になった。要因のひとつは、手動圧着工具だ。当社にかぎらず小ロットの圧着には汎用圧着ペンチを使用することが多い(工具コストの問題)。
圧着のときコンタクトの一部が変形し、これが接触不良の1つ原因ではないかと思われた。(現在は機械打ちを行い、他の対策も併用することでひとまず、接触不良の件は解消している。ただ機械打ちにはアプリケーターという更に高価な治具が必要になるので、話はそう簡単ではない)

 今までの経験を踏まえ、今回、指定のコネクタでも使用可能にできるのではないかと思い、プレテストを行った。以前の作成した接触不良感知器を使用し、逆に「どうしたら接触不良になるか」をテストした。その結果、おおよそ接触不良になる要因の幾つかが判明した。


試験完了後、MHIから、ほぼ問題なく使用できたとの報告を頂いたので、対応策は功を奏したと思う。

○まとめ
 我々の盤業界もケーブル作成の比率が高まっている。ただ航空機関連のケーブル作成は、やはり特殊だ。コネクタからケーブルまで、入手しにくく高価なものが多い(数ヶ月要する場合もある)。だから製作に失敗しても替わりのものをすぐ入手できない。事前準備に慎重を期さないと、取り返しのつかない事態になる。
 また、航空機業界もコストが重要視されている。今回、コスト軽減、作業時間の短縮、スケジュールへの柔軟な対応に寄与する新しい試みがなされ成功裏に完了したことは喜ばしい。当社は異業種ではあるが、異業種だからこそ、提案できることも多々あることも感じた。また、新しい提案ができる機会があれば幸いと思う。